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詩人ロルカと「新しい歌」

6月の新宿合唱祭で歌う予定の「新しい歌」。信長貴富作曲による同名の合唱曲集の最初の曲。


指を鳴らしたり(鳴る人はだが・・・)、手拍子したり(足踏みとセットでなくてよかった)と、第一印象はなんとも賑やかな楽しそうな曲である。しかし、歌ってみると、歌い込んでみると、これがなかなか厄介だ。


信長が「うた」すなわち「ことば」にこだわった五曲は、さまざまに異なる、個性的で奥行きの深い詩に曲をつけたものだというが、とりわけこの「新しい歌」の詩は何回読んでも難解だ(決してダ*ャレではない)。


フェデリコ・ガルシア・ロルカ。1898年生まれ。

明治でいうと31年。上野の西郷さんの銅像の除幕式があった年だというが、だからなんだと Wikipedia には言っておきたい。

ロルカは、スペインの詩人、劇作家。スペイン内戦が勃発し、右派勢力に捉えられ射殺されたとき、まだ38歳だった。スペインの人々にとって、ロルカが「国民詩人」として評価される存在であり、詩の作品以外にも「血の婚礼」など三つの戯曲を残し、なぜ射殺されなければならなかったのかという謎には決着がついていないという事実は、どこにも出かける予定のない黄金週間の課題図書として購入した三冊の本と一本のアンディ・ガルシアがかっこいいDVDの受け売りだ。しかもDVDは見たが、本はまだ三冊とも並行して少しずつ読み始めたばかりで、加えて、スペイン内戦ってそもそもなんだっけと言うわけで課題図書が四冊に増えてしまって、いまは途方にくれてる。


要するにロルカについて論じる資格などまったく持たないし、そもそも、ロルカを深く研究したところで、おそらく自分がこの曲を歌うにあたって、何か深みのある表現ができるようになるとかそういうことは多分まったく関係なくて、それよりは、バリトンとバスのパートをきちんと覚えて、どちらでも歌えるようにするとか、暗譜を完璧にするとか、そういうことに時間と努力を費やすべきなのだろうが、回り道することで生き延びてきた五十数年の人生を遠い目をしながら振り返り、気がつけばやっぱり迷宮にはまってる。

このまま終わるのもなんなので、途中経過(?)というわけでもないが、百六十数ページある詩集の二十数ページまででひとつ感じることがあるので、ここにもったいぶって記す。


キーワードは「死」。


信長さんの曲はなんか明るくてドラマチックなのに・・・。でもやっぱり「死」が出てくる。


「死んだ愛などから自由な歌だ」


「新しい歌」は『詩の本』LIBRO DE POEMAS のいちばん最初の詩。


次が「七月のある日のバラード」、ここにも死が顔を出す。


(略)

ーー燃える口の中に なにをくわえている?

ーー生きていて死んでいる あたしの恋人の星

ーーなんて鋭い軽い乳房 その中になにがある?

ーー生きていて死んでいる あたしの恋人の剣


この後も、「死の黒いマント」だの「伯爵の死体をさがして」「あなたはゆく愛の方へ ぼくはゆく死の方へ」うんぬんかんぬん。


ところが不思議なことに、「詩」として全体から受ける印象は、悲惨とか悲しみとか、そういうものではなく、むしろエネルギー、「生」にこだわる人の情念。それゆえの迷い。揺らぎ。


黄金週間の課題図書による自由研究はまだまだ始まったばかりだが、それでもこれだけは言えそうだ。


キーワードは「死」。そしてそれは「生」の裏返し。


ロルカは、生きることへの希望を、歌に託したかったのではないか。「うた」には、「ことば」には、生命があり、力がある。「死」に魅入られながらも、そこから自由になる可能性を「新しい」歌に託す。そう考えれば、この曲は心から希望にあふれた曲であるべきで、だからこそのフィンガースナップであり、手拍子であり、そして「最後にはやすらう歌」になるのかもしれない。


※個人の見解です。信長さんには笑われるかもしれませんね。


課題図書

『ロルカ詩集』フェデリコ・ガルシア・ロルカ、長谷川四郎訳 土曜社

『三大悲劇集 血の婚礼 他二篇』ガルシーア・ロルカ作、牛島信明訳 岩波文庫

『ロルカ—スペインの魂』中丸明 集英社新書

『スペイン内戦 山﨑雅弘 戦史ノート Vol.52』六角堂出版

映画

『ロルカ 暗殺の丘』アンディ・ガルシア主演


脳内スペイン・アンダルシア旅行はいかがでしょう


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